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雲は答えなかった -高級官僚 その生と死- / 是枝裕和 [本のこと。]


雲は答えなかった   高級官僚 その生と死 (PHP文庫)

雲は答えなかった 高級官僚 その生と死 (PHP文庫)

  • 作者: 是枝 裕和
  • 出版社/メーカー: PHP研究所
  • 発売日: 2014/03/05
  • メディア: 文庫


映画監督としてコンスタントに新作を撮り続けている是枝監督ですが、書店でふと、こんなノンフィクションの本を発見しました。
内容は、監督がまだTV製作会社で映画を撮り始める前の出来事で、その映像作品のデビュー作となるドキュメンタリーの取材過程で知り合うことになったある人物の生涯を綴ったものです。
読み始めてから知ったんですが、是枝監督は直接この人物とは対面しておりません。
こんな風に知り合うことになる、そしてそこから取材が始まるということが、その後是枝監督が作品を撮っていくに当たり間違いなく大きな影響を与えることは当然わかることです。
必然とか運命とか言ってもいいほどの大きな出来事として、是枝監督が残したこの取材記録は、形を変えて別の作品の表現へ繋がっているのはもちろん、この記録そのものが何度も少しずつ版を重ねて書店に並んでいる意味は、すごく大きいように思います。

ずっしりとした手応えの残る本に出会いました。
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五郎治殿御始末 / 浅田次郎 [本のこと。]


五郎治殿御始末 (中公文庫)

五郎治殿御始末 (中公文庫)

  • 作者: 浅田 次郎
  • 出版社/メーカー: 中央公論新社
  • 発売日: 2014/05/23
  • メディア: 文庫


開花期が舞台となった日本の歴史上の特異点ともいえる時期の物語を描く短編集です。
この中の一編、「柘榴坂の仇討」が2014年に映画になり、そちらを先に観ていました。
自分はこのパターンが比較的多いんですが、映画化されたりしているものを先に鑑賞して、後追いで原作に取り掛かる、いつもの形でこれを読みました。
侍の世が唐突ともいえる終わり方をし、それに戸惑い、それぞれに自らの在り方の中でひとつの決着をつけるエピソード、という括りで捉えることができるテーマの作品群で(そういったことが解説にもあり、そのまま考え方を拝借している説明ではありますが)、浅田次郎氏が描くと、やはりそこには武士としての姿の美しさであったり、心意気であったりが描かれていて、読んでいて我が身をつい振り返り、情けなくも感じたりします。中でも映画になった「柘榴坂の仇討」は時代の変転があまりに早すぎるために瞬く間に風化して無価値のように思えてしまう己の身の上が遣る瀬無く、仇を追う立場も追われる立場もあまりに互いに切ない状況にただ戸惑うばかりになってしまうのが心情的によく分かります(もちろん、そんな切羽詰まった状況を自分では経験している訳ではないんですが)。
最期のエピソードとして語られる表題作は、その数々の遣る瀬無い思いを引き受け、示してくれるその生き方は、やはり受け継ぎ、伝えておくべきものではないだろうかと思えます。誰かの未来のために自分の命があり、その一点をのみ考えて生を全うできるなら嬉しいことだし、納得のいく人生なのかもしれないと、やっぱり思えます。
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ジブリの世界を創る / 種田陽平 [本のこと。]


ジブリの世界を創る (角川oneテーマ21)

ジブリの世界を創る (角川oneテーマ21)

  • 作者: 種田 陽平
  • 出版社/メーカー: KADOKAWA/角川書店
  • 発売日: 2014/08/01
  • メディア: 新書


種田陽平さん、といえば、いくつか手掛けてきた作品で目にしていることがあるという人が多いと思うんですが、日本映画の美術監督として、現在もう別格の評価になっているともいえます。
自分が初めて目にしたのは岩井俊二監督の「スワロウテイル」でした。
最近では、三谷監督の作品は完全に種田さんの美術ありき、になっているようだし、何よりこの本が世に出るのは、やはりジブリとの関わりがあってこそではあるんですが、自分はやはりそのキャリアの初期に関わった「スワロウテイル」をはじめとする作品について、種田さんの仕事というのがどんなものであったかを知りたかったです。
こうした美術の仕事、特に映画製作でとなると、知られていないことの方がやはり圧倒的に多いし、自分がこれから、その道を目指していくとかではないとしても、読んでみて学ぶことが本当に多かったです。
巻末にあった「思い出のマーニー」の米林監督との対談も読みごたえがありました。
仕事への向き合い方って、その人の適性の部分だったり性格によるものとか、あるいは経験してきた年齢によってたぶんどんどん変化していくんだろうけど、様々なものから刺激を受け、それが反映していくことはやはり大事だと思えます。自分の発想の可動範囲をできるだけ錆びつかせず、柔軟でいたいなと改めて思います。
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国境の南、太陽の西 / 村上春樹 [本のこと。]


国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

国境の南、太陽の西 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1995/10/04
  • メディア: 文庫


なんとなく「ダンス・ダンス・ダンス」まで読了したことで、自分の中で達成感があったので、その後に続く作品群に取り掛かるのに少し時間がかかりました。が、読み始めてしまうと、これは小説自体の長さのせいもあるけど、ほんとにあっという間でした。
この作品も主人公は一人称の僕なんですが、過去の作品群とは少し違った面があります。
これまでと共通しているのは、自己をしっかりと適正に認識していて、冷静で他者との距離をどの程度にとるべきかしっかりと考えており、取り乱したり感情的な部分は極力抑制して、という、自らの生きていくスタンスが明確にある人物に見えていることで、それを勝手に読み手としては作者である春樹氏のものの考え方を反映しているキャラクターではないかとどこか思いながらイメージしている点で、自分は少なくとも、その穏やかな人物に、その時その時の自分自身の気分をブレンドしながら寄り添うように読んでいます。
今回読んでみて改めて感じたのは、“僕”の生活がある程度その社会の価値観にうまく合わせ(居心地の悪さのようなものは感じていたとしても)、はっきりと経済的な成功と呼べるものを手にしていたという点が、なんだか意外で、そのことが印象に残りました。
それはとりもなおさず、今の自分がそういった社会の中での生きにくさを常々実感して身近に感じているからなのかもしれません。
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蜩の記 / 葉室麟 [本のこと。]


蜩ノ記 (祥伝社文庫)

蜩ノ記 (祥伝社文庫)

  • 作者: 葉室 麟
  • 出版社/メーカー: 祥伝社
  • 発売日: 2013/11/08
  • メディア: 文庫


先に映画を観ており、興味が出てこの原作に挑戦しました。
半年以上前からちょっとずつちょっとずつ読み進めて、そのスタイルがぴったりな内容でもあったので、読了に至った気分もまたいつもとは違うちょっとした達成感もありました。
時代小説でありながらちょっと推理小説の要素もあり、過去、そんなテイストの作品には出会ってなかったので新鮮でした。
読み進めてみて感じたのは、映画が実に丁寧にこの小説の成り立ちを的確に映像に置き換えていて、その物語を活字で追体験するのが本当に愉しかったです。
ただもちろん、筋道はすでに知っているため、秋谷が明かさなかった数年前の出来事の真相がどう明かされていくのかも分かっている上で読んでいたので、謎解きそのものの面白さは味わえなかったのは残念です。
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ダンス・ダンス・ダンス / 村上春樹 [本のこと。]


ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(上) (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/10/15
  • メディア: 文庫



最近、記事の整理をしてくる中で、この記録を残しておいてなかったことに気づきました。
今年に入って、文庫で読み返す村上春樹小説を続けてきたんですが、一旦ここまででひとつの到達点という気分です。最初に、全作品をまとめたものが出版されて読んでから、30年近く経ちました。
かつて何度も読み返していた作品だけど、最後に読み返してからたぶん10年以上は経過して、今回の読了です。登場人物のイメージで受け止め方が随分変わった気がしています。単純に、読んでいるこちら側が歳をとり、かなりのキャラクターの年上になったことで見えてくるものがだいぶ違います。ユキがずっと若い繊細でちょっとエキセントリックな子というのは相変わらずだとしても、まさか自分がアメの方がずっと近い年齢に達するなんて、不思議な感覚です。
更には、羊男の存在も、以前に比べしっかりとその輪郭が捉えられるようになったのも自分にとって意外でした。
“僕”がたくさんのものを失いつつも前に進む姿は、以前読んだ時以上に、胸に迫り、そして勇気づけられました。
やはりこのラストは、改めて読み返しても好きです。
ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)

ダンス・ダンス・ダンス(下) (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/10/15
  • メディア: 文庫



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木皿食堂 6粒と半分のお米[木皿食堂2] / 木皿泉 [本のこと。]


木皿食堂

木皿食堂

  • 作者: 木皿 泉
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2013/05/21
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)



木皿食堂2 6粒と半分のお米

木皿食堂2 6粒と半分のお米

  • 作者: 木皿 泉
  • 出版社/メーカー: 双葉社
  • 発売日: 2015/05/20
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)


エッセイ集と、インタビューほか、いろんな言葉がいます。
脚本家である木皿泉さんの神戸で連載しているコラムが中心ですが、そこに様々な断片がまとめて収録されています。脚本の執筆に関することやシナリオのとらえ方、立ち位置も含めやはりこの方々は独特だなぁと改めて思います。
2冊目で収録されているNHK Eテレで放映されていた佐藤健くんとの対談は、番組も観ていましたが、こうして文面で読んでも面白かったです。
自分は木皿さんの作品を知ったのが比較的遅かったんで、実は「野ブタ」とか「Q10」とか、その時期のドラマは全然観ていませんでした。そして「昨夜のカレー、明日のパン」を読んで一気にはまりましたので、DVDレンタルなどでちょっと探してみようかと思っています。
タグ:木皿泉
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カレイドスコープの箱庭 / 海堂尊 [本のこと。]


カレイドスコープの箱庭 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

カレイドスコープの箱庭 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/07/04
  • メディア: 文庫


「玉村警部補の災難」に続いて、宝島社からこの作品も文庫化されました。
実は、この先いつになるか分からなかったし、一度確認しておこうと、「ケルベロスの肖像」と「輝天炎上」を読み返してたところだったんですが、そんなタイミングで書店に並んでたんで、とりあえず購入、先の2冊を無事終えて早速取り掛かりました。
白鳥・田口シリーズとしてはいよいよ本当の完結ということですが、その内容はどこか原点回帰というか、最初の最初に「チーム・バチスタ」を読んだ時のあの感じがよみがえってきました。病院内部で起こる問題として、ケルベロスの時点でとにかく派手にやってしまっているんで、比べてもこちらはかなり穏やかな解決ではあったんですが、実はこうした火種のようなものは、おそらくまだまだあちこちになるんだよともとれるものです。「ケルベロス」のボーナストラックとしてちらっと登場のあの辺りももちろんつながってくるんでそれも嬉しかったですが、それを上回るサプライズ。なんだか感慨深いです。
単行本はすでに出ている幾つか、まだもちろん文庫化はされていない作品は、この本線である田口・白鳥シリーズ以外にもまだ残っていて、そちらが楽しみです。
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玉村警部補の災難 / 海堂尊 [本のこと。]


玉村警部補の災難 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

玉村警部補の災難 (宝島社文庫 『このミス』大賞シリーズ)

  • 作者: 海堂 尊
  • 出版社/メーカー: 宝島社
  • 発売日: 2015/06/04
  • メディア: 文庫


いつになったら、次の文庫が出てくれるんだろうと、けっこう待ってました。
これです。
玉村・加納コンビで長編の桜宮サーガの途中の時期をつないでいく様々なエピソードが、やっぱり楽しいです。
なんとなく、ワードとしてはあちこちで登場していた気がする「青空迷宮」って、こんなエピソードだったんだ・・・ていうのがいちばん意外でした。やはりついて、螺鈿とか、その辺りとの関連を想像してて、もっと陰鬱でどろどろのものをイメージしてたんですが、よく考えたら、青空でしたね、舞台が。ある種の密室ミステリーだから、他より一層、これはエンターテイメント寄りでした。

あと数冊、まだ文庫化が実現していない作品があります。
またしてもこれをあっという間に読み終えてしまったんですが、たぶんすぐ次は出ないでしょうから、仕方なく「ケルベロスの肖像」を読み直しております。
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ノルウェイの森 / 村上春樹 [本のこと。]


ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: ペーパーバック



ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: ペーパーバック


「蛍」を先に読み終えたので、その記憶が新鮮なうちにと思い、一気に読み進めてました。
考えてみれば、初めてこの作品に出会った頃、この物語が自分にはひりひりするくらい身近で生々しい実感があって、センチメンタルな気分に満ち溢れて読んでいた記憶があります。
あれからもう、そこそこの年月が経ち、自分が目にしてきたものも、感じてきたものも沢山あって、同じ文体を改めて追っていても、見えてくるものがやはり違います。その距離感は、この作品の冒頭に描かれている、時間が経って“僕”が過去に向き合うエピソードとどこか似ている気がしました。以前なら、自分にはこの感覚をまだ持ち合わせていなかったし、それに類する経験も何もしていませんでした。
順番にこうして過去の長編作品をたどっていく中で、毎回思うのは、すでにこの作品以降のキャリアで発表されたものが、思いがけない形で様々にリンクしていて、後から更新された記憶を喚起しながら共鳴する部分が、読むたびに増えていっている感じがしています。そしてもちろん、この作品より以前に書かれたものとも共鳴していて、複雑な和音が聞こえてくるようです。

読み終えてふと、この物語を最後に直子というキャラクターは(あるいは同等と考えていいキャラクターは)語られることがなくなったように思えたりするんですが、ミドリについては、この先にまだ、どこかで再開するのかもしれないという予感があって、その可能性を改めて考えたりしています。
次に新しい長編が登場するのがいつかわからないし、それがどんな作品になるかももちろん分かりませんが、なんだかちょっと今まで考えなかった期待が浮かんできました。楽しみです。
ほんとはまだ、読み進めなくちゃいけないはずの短編が残っているんですが、「ダンス・ダンス・ダンス」に向かいます。
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