ノルウェイの森 / 村上春樹 [本のこと。]
「蛍」を先に読み終えたので、その記憶が新鮮なうちにと思い、一気に読み進めてました。
考えてみれば、初めてこの作品に出会った頃、この物語が自分にはひりひりするくらい身近で生々しい実感があって、センチメンタルな気分に満ち溢れて読んでいた記憶があります。
あれからもう、そこそこの年月が経ち、自分が目にしてきたものも、感じてきたものも沢山あって、同じ文体を改めて追っていても、見えてくるものがやはり違います。その距離感は、この作品の冒頭に描かれている、時間が経って“僕”が過去に向き合うエピソードとどこか似ている気がしました。以前なら、自分にはこの感覚をまだ持ち合わせていなかったし、それに類する経験も何もしていませんでした。
順番にこうして過去の長編作品をたどっていく中で、毎回思うのは、すでにこの作品以降のキャリアで発表されたものが、思いがけない形で様々にリンクしていて、後から更新された記憶を喚起しながら共鳴する部分が、読むたびに増えていっている感じがしています。そしてもちろん、この作品より以前に書かれたものとも共鳴していて、複雑な和音が聞こえてくるようです。
読み終えてふと、この物語を最後に直子というキャラクターは(あるいは同等と考えていいキャラクターは)語られることがなくなったように思えたりするんですが、ミドリについては、この先にまだ、どこかで再開するのかもしれないという予感があって、その可能性を改めて考えたりしています。
次に新しい長編が登場するのがいつかわからないし、それがどんな作品になるかももちろん分かりませんが、なんだかちょっと今まで考えなかった期待が浮かんできました。楽しみです。
ほんとはまだ、読み進めなくちゃいけないはずの短編が残っているんですが、「ダンス・ダンス・ダンス」に向かいます。
コメント 0