五郎治殿御始末 / 浅田次郎 [本のこと。]
開花期が舞台となった日本の歴史上の特異点ともいえる時期の物語を描く短編集です。
この中の一編、「柘榴坂の仇討」が2014年に映画になり、そちらを先に観ていました。
自分はこのパターンが比較的多いんですが、映画化されたりしているものを先に鑑賞して、後追いで原作に取り掛かる、いつもの形でこれを読みました。
侍の世が唐突ともいえる終わり方をし、それに戸惑い、それぞれに自らの在り方の中でひとつの決着をつけるエピソード、という括りで捉えることができるテーマの作品群で(そういったことが解説にもあり、そのまま考え方を拝借している説明ではありますが)、浅田次郎氏が描くと、やはりそこには武士としての姿の美しさであったり、心意気であったりが描かれていて、読んでいて我が身をつい振り返り、情けなくも感じたりします。中でも映画になった「柘榴坂の仇討」は時代の変転があまりに早すぎるために瞬く間に風化して無価値のように思えてしまう己の身の上が遣る瀬無く、仇を追う立場も追われる立場もあまりに互いに切ない状況にただ戸惑うばかりになってしまうのが心情的によく分かります(もちろん、そんな切羽詰まった状況を自分では経験している訳ではないんですが)。
最期のエピソードとして語られる表題作は、その数々の遣る瀬無い思いを引き受け、示してくれるその生き方は、やはり受け継ぎ、伝えておくべきものではないだろうかと思えます。誰かの未来のために自分の命があり、その一点をのみ考えて生を全うできるなら嬉しいことだし、納得のいく人生なのかもしれないと、やっぱり思えます。
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