海賊とよばれた男 / 百田尚樹 [本のこと。]
新刊として出ているものではこの先に並ぶはずの作品がまだ幾つかあるはずなんですが、順番飛ばして文庫化されたので早速読みました。
本屋大賞という評価を抜きにしても、読んでおきたかった作品です。
モデルとなった出光興産のことも、店主のことも知りませんでした。
ただ、物語のひとつの山場でもある日章丸事件というのは、なんとなくですが記憶の片隅にキーワードとしてだけ引っかかっていた気もしますが、その真実を知ったのはこの小説で描かれている内容で初めて理解しました。「黄金のバンタムを破った男」とは異なり小説ですので、人物も実在の人と小説世界の人とが入り混じったものですが、同じく昭和史に刻まれた一筋の道として、読み終えたときに日本人であることに胸を張りたい気分になりました。3・11を経たことで歴史の反復を改めて実感している現代だからこそより強く感じる日本人の持つ独自の価値観、他者を慮るメンタリティとかは変わっていないのかもしれませんが、昭和が平成になった敗戦から70年経過した中で失われてしまってるかもしれないものも感じずにはいられません。
少なくとも、例えばツービートの“みんなで渡れば怖くない”という表現が、その当時は毒舌で笑いの対象となる価値観だったはずなのが、今はむしろ当然のマジョリティになってしまっているような価値観の変化は確実にあって、その居心地の悪さを自分はなるべく失いたくはないと思いながら日々を生きているところがあって、こういう小説が訴えているほんの少し前の世代の出来事に思いを巡らすことは価値があるんじゃないかと思わずにはいられません。
平成生まれ以降の若い世代にこそ、なるべく触れてほしい作品であるという意味で、これと「永遠の0」は百田作品の中でもちょっと別格な気がしています。
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