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「ノルウェイの森」 [cinema]


ノルウェイの森 【スペシャル・エディション2枚組】 [DVD]

ノルウェイの森 【スペシャル・エディション2枚組】 [DVD]

  • 出版社/メーカー: ソニー・ピクチャーズエンタテインメント
  • メディア: DVD


12/23(木)に観てきました。
まだ2010年鑑賞分の記事がupし終えてません。

この作品が映画化されるという企画が実現、その事実だけでニュースになっていました。
村上春樹さんの小説は、ちょうど社会人になってすぐの時期に発刊された「村上春樹 全作品 1979-1989」をきっかけに読むようになり、順を追ってこの小説も通して読んでおりました。最初に単行本が出ていた頃、ベストセラーになったのは知っていながらスルーしてて、後追いでの読書体験です。

村上春樹全作品 1979~1989 全8巻セット

村上春樹全作品 1979~1989 全8巻セット

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 1993/04/02
  • メディア: 単行本


長編だけでなく、短編集もこの全集に収録されているものは一通り読みました。おそらくは、ちょうどその当時の自分が求めていたであろう気分にぴったりとはまるものが描かれていたこともあって自分の生活リズムに馴染ませるように、繰り返し繰り返し読んでいた作品群です。
中でも「ノルウェイの森」という小説の描く世界観は他の長編作品とは少し位相の異なるポジションというか、独特の佇まいがあるものでもあって、ある意味では他の作品以上に映像と記憶を喚起させられる物語に思えて、だからこそ実は映像化はかなり難しいというとらえ方をしていました。そしてそれは、この作品が好きな読者の大半が同じように考えるものであったように思います。
ヴェトナム系フランス人であるトラン・アン・ユン監督の過去の作品は、タイトルだけ知っていてもまだ観たことがありませんでした。
原作者、村上春樹氏が監督と出会い、この企画が実現するのなら、この映像作品がどのような完成形になっているのか、不安も半分、これはどうしても気になって観ないわけにはいかないと。

前置きが長くなりました。小説の映像化作品は、原作を知っているとどうしても比較検討ばかりしてしまい、純粋に映画として堪能しにくい場合がよくあります。当然のごとく自分も今回、ついつい気になる箇所はあちこちにありました。
その上で今回、描かれたこの作品の提示しているものは小説の中にあった物語のあくまで解釈のひとつで、監督自身の話法が貫かれている美しい世界観が伝わるものでした。
撮影のマーク・リー・ピンビン、この人の眼でこそ語れる映像って、やっぱりあるんだなぁと感心しました。リー・ピンビン撮影の作品って、自分はまだ「珈琲時光」と「空気人形」くらいしか知らないんですが、でもそれらの作品での映像の説得力というのが、やっぱり鮮明に記憶に残っていて、この作品にも共通するたおやかさみたいなものを感じます。
そして配役について。
まず主演の松山ケンイチくん、ワタナベ役は一人称の小説の、実像がかなり掴みにくいキャラクターなんですが、違和感なく彼でした。思春期にここまで親密に死者の息遣いを感じながら生活することがいかに残酷なのか、小説を読んでいるときには虚構で想像の世界だからそれで済んでいる部分もあったのに、こうして映像により肉体化されているものを観てみると、どれほどしんどいことなのかをまざまざと感じてしまいます。見事でした。
菊地凜子さん演じる直子のキャラクターも実に厄介です。小説の中にある人物がワタナベくんとは別の意味で実体が描きにくい、もしかしたら厳密にはヒトではないものなのではないかと感じてしまうような存在なので、そのまま演じるなんて誰が配役されても確実に異を唱えられてしまう状況なのに、ある種描きようもないはずの儚さみたいなものをよくブレずに演じてるなぁと思いました。
そして注目のミドリ役、水原希子さん。こういうミドリ像があったかと、新鮮な驚きがありました。時代背景もあるんですが、どこか背伸びして見せたがる感じとか、ちょっとエキセントリックにも思える行動の大胆さであるとか、躍動感のある母性が垣間見える感じとか、こうして挙げてみても並列で成立しずらいであろう要素がミドリのキャラクターにはあると思うんですが、それがちゃんと共存できているように見えて、本当に魅力にあふれていました。
更にキズキを演じる高良健吾くんも、永沢を演じる玉山鉄二くんも驚くほどぴったりだったし、阿美寮の門番でユキヒロさんが居たり、ワタナベがバイトしているレコード店のマスターがヒッピー風(!)の細野さんだったり、大学教授がイトイさんだったり、こういうキャスティングはいったい誰のアイデアだったんだろうと、いろいろ楽しめました。

前述しましたが、脚本上で気になる箇所いろいろあって、それも提示された解釈のひとつであるからいいんだと思えるとして、それでもその中で、個人的にはついこだわってしまう場面がただ、ひとつ。
もちろんワタナベ(僕)、直子、ミドリのエピソードを中心に描くうえで突撃隊の部分が軽い扱いになっちゃうとしても仕方ないことではあるんですが、でも、やはり蛍のことが一切触れられないことに関してだけ、言わずにはいられなくなります。最後に、あえて原作にあるそのままのセリフで結ぶのであるなら、それ以上に原作の中で尊重しておいてほしかった場面に思えてなりません。

結局、観る前から半分は予想もできていたはずなんですが、映像作品としては本当に美しい見ごたえのあるものだったんですが、原作とそれなりの親密さで長い時間を過ごしてきてしまった者として、もやもやとしてものが残ってしまう鑑賞となりました。
もう一度、原作小説を改めて読み直してみたくもなっています。
そしてひとまず、トラン・アン・ユン監督の過去の作品をこれからたどってみようと思っています。

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

ノルウェイの森 上 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫



ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

ノルウェイの森 下 (講談社文庫)

  • 作者: 村上 春樹
  • 出版社/メーカー: 講談社
  • 発売日: 2004/09/15
  • メディア: 文庫



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non_0101

こんばんは。
私は本は随分前から持っているのに、未読のまま飾ってあります(^^ゞ
本を読んでいる人は主人公がぴったりという意見が多いですね。
本を読むのが楽しみになってきました。
映画でも独特の雰囲気が伝わってきたので、本はもっと凄いのかなあと想像しています。
そのうち心が静かなときにでもチャレンジしてみようかと思っています☆
by non_0101 (2011-01-15 23:44) 

cs

non_0101 さん、niceとコメント、どうもありがとうございます。
主人公のワタナベくん、一人称の僕なんですが、原作でも独特の話し方であったり(映画では今回、かなり原作での話し言葉を忠実に再現してて、それがちゃんと成立しているのに驚きました)、けっこうハードルが高かったと思いますが、配役の中でも松山ケンイチくんは特にがんばってたんじゃないかと思います。
自分はこれまで、どちらかというと先に映画で出会った物語を後追いで小説として確認していく方が多かったんですが、今回は例外的に逆で、それだけに non_0101 さんのような順番で原作に出会うとどんな感想になるのか、とても気になります。
by cs (2011-01-16 02:22) 

Labyrinth

(^_^)ノ こんにちは。
原作のファンでいらっしゃる cs さんならではの繊細な文章を、心して読ませて頂きました。
やはり これは原作を良く読んで、自分で判断しなくちゃなりませんかね? f^_^;
いずれにしましても、ピーマン頭の私めにとっては無理難題かも!(´m`)

by Labyrinth (2011-01-30 16:57) 

cs

Labyrinth さん、記念すべき300個目のniceをいただきました。
コメント&TBともども、ありがとうございます。
自分は原作ファンというより、村上春樹氏の小説は単純にしっくりくる作品だからずっと読んできてて馴染みがあるんで、ちょっとこういう映画化って、正直戸惑いの方が強いです。
でも、やっぱり映画と小説は同じ物語であっても別物の表現ですよね。
できたら、どっちも補完しあえて、それぞれに楽しめる方がいいのかもしれないけど、もちろん(最後だけ、ちょっとワタナベくんの口調を真似てみました)。
by cs (2011-01-31 22:28) 

ねじまき鳥

省略されすぎの感もありますが、原作を読まずに観れば、よくできていると思う。
by ねじまき鳥 (2011-02-28 23:50) 

cs

ねじまき鳥さん、niceとコメントどうもありがとうございました。
こういう世界観の小説の映画化って、果敢なチャレンジだったと思います。
映画に先に触れて、原作を読んでみようと思う方が増えたりするのであれば、それも意味があると思いますし、あくまで映像と文章では表現として別ですよね。
いずれにしても、一過性のものではない、普遍性のある作品に仕上げようとした姿勢は評価されていいと思っています。
by cs (2011-03-01 00:10) 

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